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富山地方裁判所 昭和34年(行)3号 判決

原告 清水秀英

被告 魚津市

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「魚津都市計画火災復興土地区画整理事業事務受託者富山県が、中屋久蔵に対し昭和三十三年六月十二日付魚復都第二一三号をもつてなした六一B街区L二一画地の内地積約二十九坪三合なる仮換地についての借地権指定処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び予備的に「魚津都市計画火災復興土地区画整理事業事務受託者富山県が、中屋久蔵に対し昭和三十三年六月十二日付魚復都第二一三号をもつてなした六一B街区L二一画地の内地積約二十九坪三合なる仮換地についての借地権指定処分は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求の原因として

一、被告は昭和三十一年十月魚津都市計画火災復興土地区画整理事業を施行し、同年十一月一日右土地区画整理事業に関する事務を富山県に委託し、同三十四年三月三十一日右事務の委託を廃止して被告が引続き右土地区画整理事業を施行しているものである。

二、魚津都市計画火災復興土地区画整理事業の事務委託者である富山県(以下単に受託者県と略称する。)は、昭和三十二年九月二十一日付魚復都第六一二号をもつて原告に対し、その所有する魚津市下村木町沖田割三千六百四番田一畝十四歩、同所三千五百九十四番田九歩、同所三千五百九十六番田二十歩、同所三千六百二十六番田十三歩、同所三千六百二十七番の一宅地九坪(以下本件土地と略称する。)合計九十五坪に対し、街区番号六一B画地番号L二一地積約七十四坪なる仮換地の指定(以下本件仮換地指定と略称する。)をなし、次いで同三十三年六月十二日付魚復都第二一三号をもつて、訴外中屋久蔵に対し、同訴外人が原告より借地する本件土地内の三千六百四番田一畝十四歩の内三十七坪の借地権につき、前記街区番号六一B画地番号L二一の内地積約二十九坪三合(その区域は別紙第一図面記載のとおり)なる仮換地についての仮の借地権の指定(以下本件仮換地についての借地権指定と略称する。)をなした。

三、しかしながら、訴外中屋久蔵に対する本件仮換地についての借地権指定処分は、次ぎの事由により無効である。

1  土地区画整理法第九十八条の規定によれば、宅地についての仮換地指定処分と、その仮換地についての借地権指定処分とは同時に行なわなければならないのにかかわらず、本件仮換地についての借地権指定処分は、前記のとおり本件仮換地指定処分がなされた昭和三十二年九月二十一日より後の翌二十三年六月十二日になされたもので、右規定に反し無効である。

2  仮換地についての借地権指定処分をするに当つては、その仮換地指定を受ける従前の土地の所有者の意思を無視して、これを指定することは仮換地指定権の濫用であつて許されないものであるのにかかわらず、受託者県はこれに反し、従前の土地の所有者である原告の意思を無視して本件仮換地についての借地権指定処分をなしたものであるから、本件仮換地についての借地権指定処分は無効である。

詳言すれば、原告は本件土地区画整理事業における土地区画整理審議会或いは魚津復興都市計画事務所長に対し、原告所有の本件土地を換地する場合は、本件土地内の三千六百四番田一畝十四歩の内三十七坪の賃借人訴外中屋久蔵の借地権の指定先として本件仮換地内別紙第二図面記載のA地以外のB地又はC地にその区域を指定せられたい旨申し入れてきた。そして受託者県は前記のとおり昭和三十二年九月二十一日本件仮換地指定処分をなしたが、その際右仮換地について訴外中屋久蔵の借地権指定処分が行なわれなかつたため、原告は自己の希望が容れられたものと信じて、本件仮換地の内別紙第二図面記載のA地(本件土地の内三千五百九十六番田二十歩、三千六百二十六番田十三歩合計三十三歩の減歩地積二十八坪六勺に相当するものとして)を昭和三十三年二月十七日訴外高橋喜行に売り渡す旨契約し、その代金を受領した。ところが受託者県は前記のとおり同年六月十二日訴外中屋久蔵に対し本件仮換地についての借地権指定処分をなし、その借地区域として別紙第一図面記載のとおり別紙第二図面記載のA地を含む区域を指定したものであつて、仮換地指定権の濫用も甚だしいものである。

3  法第九十八条第三項に規定する土地区画整理審議会の意見聴取の際には、同審議会は土地所有者の意思を尊重して答申しなければならない。このことは仮換地についての借地権の指定をなすに当つて、従前の土地の所有者に対し、特に右指定の通知を要しないところからみても極めて明らかなところである。そうであるのに本件土地区画整理事業における土地区画整理審議会はこれに反して、訴外中尾久蔵に対する本件仮換地についての借地権指定に関する答申に当り、本件土地の所有者である原告の前記意思を無視して答申をなしたもので、このような諮問を経てなされた本件仮換地についての借地権指定処分は無効である。

4  仮換地についての借地権指定処分を行うに当り、従前の土地の所有者の意思如何にかかわらず、所有者の意思と相反する土地区画整理審議会の意見をきいて行う場合には、その仮換地についての借地権指定処分は必ず従前の土地の所有者に通知することを要する。本件仮換地についての借地権指定は、前記のとおり従前の土地所有者である原告の意思に反してなされたにもかかわらず、原告に対して右借地権指定の通知はなされておらない。従つて本件仮換地についての借地権指定処分は違法であり無効である。

四、仮に訴外中屋久蔵に対する本件仮換地についての借地権指定処分が無効でないとするも、前記三の各事由により取消されるべきものである。

よつて原告は受託者県の訴外中屋久蔵に対する本件仮換地についての借地権指定処分に対して、昭和三十三年七月八日建設大臣に訴願をなし、本件仮換地についての借地権指定処分の取消を求めたが、同三十四年三月六日訴願棄却の裁決があつたため、本訴請求に及んだ次第である。

と述べた。

被告指定代理人は答弁並びに主張として

一、請求原因事実中、本件仮換地の内別紙第二図面記載のA地を本件土地の内三千五百九十六番田二十歩、三千六百二十六番田十三歩に相当するものとして訴外高橋喜行に売り渡す旨契約し代金を受領したとの事実は不知、その余の事実はすべてこれを認める。

二、本件仮換地についての借地権指定処分には、これを無効ならしめ、あるいは取消すべきものとする違法の点はない。なお本件仮換地についての借地権指定位置は、原告及び訴外中屋久蔵の利益を十分に調整したうえ、別紙第一図面記載のとおり指定したものでもつとも合理的妥当なものである。

原告には、場所の如何を問わず、訴外中屋の借地権を認める意思はなく、本件土地区画整理事業施行に伴う右訴外人の借地権申告に当り、その連署を拒み、或いは同訴外人の借地地代の受領を拒否する等して、本件土地区画整理事業施行を機会に同訴外人の借地権のとりあげを計つておるものである。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、原告の主張事実中、本件仮換地の内別紙第二図面記載のA地を本件土地の内三千五百九十六番田二十歩、三千六百二十六番田十三歩の減歩地積合計二十八坪六勺に相当するものとして、訴外高橋喜行に売り渡す旨契約し代金を受領した事実以外はすべて当事者間に争いのないところである。

そこで先ず本件仮換地についての借地権指定処分が本件仮換地指定処分より約八ケ月余の後になされて右両処分が同時になされなかつたことは、土地区画整理法第九十八条の規定に違反し無効又は取消されるべき瑕疵であるか否かにつき判断する。同条第一項、第四項、第五項によれば仮換地指定処分と仮換地についての借地権指定処分とは同時になされることを建前にしていると解せられるが、たまたま施行者の事務手続の上から、或いは仮換地指定を受ける従前の土地所有者とその借地権者等の間に紛争があるなど、やむを得ない事由により、仮換地についての借地権の指定が仮換地指定と同時になされなかつたことがあるとしても、たゞちに、その仮換地についての借地権指定処分が違法であるということはできない。

二、次ぎに、本件仮換地についての借地権指定処分に当つて、従前の土地所有者である原告の要望を容れずに訴外中屋久蔵の借地権の目的となるべき部分を指定したのは、仮換地指定権の濫用であり、かかる処分は無効又は取消されるべきものであるか否かの点については、地方公共団体である被告が仮換地についての借地権指定を行う場合は、土地区画整理法第九十八条第二、第三項、第八十九条第二項に従い、土地区画整理審議会の意見を聞き且つ仮換地についての借地権の位置と従前の土地上の借地権の位置、地積、土質、水路、利用状況、環境等が照応するように指定すべきであつて、従前の土地所有者の同意を必要としないのであるから、その結果土地所有者その他関係人の要望するところと異なつた指定となつたとしても、そのために同処分が指定権の濫用として違法となるものではない。

三、更らに、本件仮換地についての借地権指定処分に当つて、土地区画整理審議会がその諮問に際し原告の要望するところを容れず、これと異なる意見を具申したのは違法であるか否かについては、土地区画整理審議会は、もとよりその意見具申に当つては、土地所有者の意向も十分考慮しなければならないけれども、必ずしもそれに拘束されるものではない。証人村田栄の証言によれば、本件仮換地についての借地権指定処分に当つて、土地区画整理審議会は、土地区画整理法第八十九条第一項の趣旨に則つて公正なる意見を具申したのであつて、ことさら原告の希望を無視し、あるいは訴外中屋久蔵の利益を計つたものでないことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。従つて前記審議会の答申が原告の要望を容れなかつたとしても、何らそこに違法の点は存しない。

四、なお従前の土地所有者である原告の意思に反してなされた本件仮換地についての借地権指定処分が原告に通知されないのは、右処分を違法ならしめるものであるか否かについては、土地区画整理法第九十八条第五項によれば、仮換地についての借地権指定の通知はその借地権者に対しては、これを為すことを要するが、土地所有者に対してこれを要しないのであり、その処分が土地所有者の意思に反するか否かによつて通知の取り扱いを異にするものと解すべきではない。

五、以上のとおり、原告の主張するところはいずれも理由がなく、本件仮換地についての借地権指定処分には違法はないから、本訴請求(主位的請求及び予備的請求)はすべて失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤寿 吉田誠吾 鬼頭忠明)

清水秀英及び中屋久蔵に対する従前の土地並びに仮換地位置(借地位置)対称図

第一図面〈省略〉

第二図面〈省略〉

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